ABAの基礎原理
ABAの基礎原理はスキナー博士が解明した三項随伴性をもとにした原理です。発達障害児は時に理解しづらい行動をとることがありますが、それでも実はこの基礎原理に当てはまる行動をしていることがわかっています。ABAの基礎原理。これらには大きく分けて三つあります。
- 強化
- 消去
- 弱化
です。今日は行動が減少する原理「消去」について解説します。
消去
「強化」は行動の直後にいいことがあると、その行動が増える。
「弱化」はその逆で、行動の直後にいやなことがあると、その行動が減る。
では消去は?
「消去」は行動の後に何もないんです。何もない、というと語弊があるかもしれません。ほうびもなければいやなこともない。前後の変化がないんです。そうすると、行動したって(変化がないから)意味がない、ということで行動が減っていきます。これが消去です。
例を挙げて詳しく考えていきましょう。
お笑い好きな男の子。いつも一発ギャグを言ってクラスメイトや周りの人たちを笑わせていました。
この時、男の子の「一発ギャグを言う」行動は繰り返されているので強化されていますよね。
ABCフレームに当てはめてみるとこんな感じです。
ある時学校の行事で高齢者のデイサービスに交流に行くことになりました。そこでこの男の子はクラスメイトに一番ウケた一発ギャグをデイサービスの利用者の皆さんの前で披露しました。
きっと大笑いに違いない…と思った男の子の期待とはうらはらに、全く笑いは起こらず。俗にいう「すべる」結果になってしまいました。
その後、男の子はそのギャグをしなくなってしまいました。
これはあくまで例ですので、実際の場面では色々な未来が予想されますよね。
・高齢者の前では一発ギャグを言わなくなる かもしれませんし
・スベッた特定のギャグだけ言わなくなる かもしれません。もしかしたら
・一発ギャグを言うこと自体なくなる かもしれません。
その後の行動がどう変化するかは、その人がそれまでどのように過ごしてきたかによりますが、重要なポイントは
これまで強化されていた行動に対して
強化の随伴性を中止すると
強化の随伴性を導入する以前の状態まで
その行動は減少する
『行動分析学入門』杉山尚子、島宗理、佐藤方哉、リチャード・W・マロット、マリア・E・マロット 産業図書 P72
と言うことです。随伴性とは「2つあるいはそれ以上の事象の間の相関関係」のことを指します。
次に、ABAの教科書の一つ「応用行動分析学」に記載された例を挙げてみましょう。少しわかりやすく日本向けにしてみました。
小学3年生のゆるた君のお話です。
この漫画は、ゆるたくんが先生に話しかける行動が消去された一連の流れでした。
もちろんこれは一例ですから、実際の指導場面ではこうはいかない、とお考えの方もおられるでしょう。まあまあ。そこはちょっと置いといて。
ここでお伝えしたい重要なポイントはこちらです。
嫌なことに見えても、子どもにとっては強化子(ほうび)として働いていることもある
という点です。
先ほどのABCスケールに当てはめてみましょう。まず前半の「先生がほかの児童に指導している時に話しかける」と言う場面です。
もしかしたら、ゆるた君はお勉強がわからなくて退屈だったのかもしれませんよね。周りのみんなは課題に取り組んで、でも自分は分からなかったのかもしれませんし、勉強が簡単すぎてつまんなーい、だったのかもしれません。その辺りはこの漫画からは分かりませんので想像の域を超えません。実際の指導場面でお子さんをよく観察する必要がありますよね。まず、分析するときにはこのように「もしかしたら」という条件は排除します。客観的に見て分かるものを分析します。そうすると
この場面では「先生が見てくれる、話しかけてくれる、構ってくれる」と言うことが「先生に話しかける」行動を維持させる強化子になっています。
その後、先生が色々考えて対策を練り、下のように変化しました。
先生に話しかけた後何か嫌なことがあったわけでもなく、ただAとCに変化がなかっただけです。それでも強化子が得られないので行動は減少していく、これが消去です。
消去バースト(extinction burst)
消去を行うと、行動は最終的には強化する前と同じくらいの頻度に減少します。しかし、すぐにそうなるわけではありません。それどころか、消去を始めると今まで見たこともないほど行動が増えたりします。このような、消去直後に行動が一時的に激しくなることを「消去バースト」といいます。
消去バーストとは
消去手続きを開始した直後
一時的に恋有働の頻度や強度が爆発的に増えること。
『行動分析学入門』杉山尚子、島宗理、佐藤方哉、リチャード・W・マロット、マリア・E・マロット 産業図書 P73
です。
外出先でのどが渇いたとき、自動販売機で飲み物を買いますね?自動販売機のボタンを押す、と言う行動は飲み物によって強化されています。けれど、ある自動販売機でボタンを押したのに飲み物が出来なかったら??すんなり諦めますか?いえいえ、きっと何度か連打したり、自販機をたたいたりするでしょう。行動がエスカレートしていますね。
お子さんの癇癪などの問題行動も、いきなり消去するとエスカレートします。ですから、問題行動の対処には、消去を単体で使うのではなく、強化と組み合わせて対応することが重要です。
まとめ
今回は消去についてのまとめ記事を書きました。細かく書けばもっと長くなってしまうので今回は大綱にとどめました。具体的な療育の戦略を描かなかったのは、その方法が汎用性があるとも限らず、支援は常に個に合わせた戦略であるべきだからです。
我が子の問題行動を減らしたい!とお考えの方は、しっかりと行動の原理を学び、お子さんに合った介入方法を考えていくといいと思います。
参考にしたもの
日本行動分析学会HP https://j-aba.jp/