「ABA(応用行動分析学)」とは?
ABA(応用行動分析学)とは一体何でしょう?基本的な考え方や、歴史、どんな人に有効なのかについて解説します。
Contents
ABAとは?
ABAは英語のApplied Behavior Analysisの略で、日本語では「応用行動分析」といいます。
米国の心理学者 スキナー(1938)が始めた「行動分析学」を複雑な人間行動に広く適用し、理論化された学問が「応用行動分析学」(ABA)です。
徹底的行動主義に基づいた「行動分析学」はABAの土台となった学問です。まず行動分析学から解説していきます。
行動分析学
行動分析学は心理学の中の学習心理学という領域に分類される学問です。行動分析学は
- 「どうしてこの行動をするのか・続くのか」
- 「なんでこの行動をしないのか・続かないのか」
- 「なんでその行動は続くのに別の行動は続かないのか」
- 「同じような状況でも、なぜ個人によってやっていることが違うのか」
などの多くの行動の「なぜ」を科学的に理解し説明していきます。
この研究を始めたのは先述した、米国ハーバード大学のスキナー博士(B.F.Skinner)です。スキナーは1930年代、実験室研究において「レスポンデント」(反射行動)に加えて新たに「オペラント」という二種類目の行動を発見しました。
- レスポンデント行動 反射行動
- オペラント行動 スキナーが発見した行動
レスポンデント行動は反射行動のことを指します。これはイワン・パブロフ博士が提唱したもので、直前に起こる刺激(先行刺激)によって引き起こされる行動を指します。つまり直前の刺激によって「引き出される」行動です。
けれど、オペラント行動は直前に起こる行動(先行刺激)に引き起こされません。前に起こった事柄ではなく、あとに起こった事柄、つまり結果がどうなるかに影響されます。
スキナーは行動がどういった原因で起こり変化していくのか、新しい行動はどのようにして学習していくのかという問題を解明するために、ネズミやハトを対象にした実験を行いました。
スキナーは行動と環境との相互作用に注目したオペラント条件付けの原理を提唱しました。
そして、環境を操作することで、特定の行動の出現頻度が増加したり減少したりすることを実験により証明しました。
スキナーは環境と行動の関係を「三項随伴性」(さんこうずいはんせい)という言葉で表し、オペラント条件付けには3つの要素があるとしました。
この三項随伴性は、ネズミやハトだけでなく、社会生活を営むヒトにも応用できることがわかり、人間社会の中でも応用していくようになります。それが、ABA(応用行動分析学)です。
人間の生活や問題の解決に役立てようというのがABAです。
応用行動分析
ABAは人の行動のなぜを観察し分析して、増やしたり減らしたりしていくことに応用していく考え方の全体のことです。そして、なぜそのように行動するのかがわかるとその行動を変えるためのヒントが見つけやすくなるのです。
応用行動分析学は、人間の行動の理解と、その改善に全力を注ぐ科学である
Applied Behavior Analysis, 3rd Edition John O. Cooper, Timothy E. Heron, William L. Heward.
応用行動分析学は、行動原理から導き出される戦術を、社会的に重要な行動を改善するために組織的に応用して、実験を通じて行動の改善に影響した変数を同定する科学である。
Applied Behavior Analysis, 3rd Edition John O. Cooper, Timothy E. Heron, William L. Heward.
ABAでは、人がなぜそのように行動するのか、行動の理由や目的を探っていきます。
つまり子どもや人の行動の責任を
- 子どものせい
- 親のせい
- 障害のせい
- 育て方のせい
- 指導力不足のせい
- 努力不足のせい
- 根性がない
などのせいにしません。
ABAは問題を誰のせいにもしません。その人と、周りの環境の相互作用の中に理由と解決策を見出して、解決に向けていきます。まとめると
・ABAは応用行動分析学のこと。 ・心理学の一つで、科学的な手法。 ・行動に着目し、分析する。 ・人の生活や問題行動に応用して 問題を解決する。
ABAは特に1960年代後半以降に発展してきました。1968年にはアメリカで学会誌『Journal of Applied behavior Analysis』が発刊され、日本でも1987年に日本行動分析学会から『行動分析学研究』が発刊されました。徐々にABAは広がりを見せ、現在に至っています。このようにABAは、比較的新しい学問であるといえるでしょう。
自閉症とABA早期療育の歴史
ABAは障害児教育、特に自閉症児への早期療育の分野で高い治療効果を上げています。これまで様々な研究が行われてきましたが、その先駆けとなったのが米UCLA大学のロバース博士(O.I.Lovaas)です。
ロバースは1960年代から自閉症療育にABAを応用していく研究を始めました。そして1987年、UCLA(カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校)のロバースの研究チームは、早期集中行動介入(EIBI Early Intensive Behavioral Intervention)を発表しました。その内容は、
- 早期(2-3才)の自閉症幼児19人に対して、
- ABAの原理と技法に基づく療育を
- 2年以上週40時間実施
- 指導者は学生セラピストと親
- 主に家庭で行う
その結果、
- 19人のうち9人(47%)が知的に正常域(IQ80以上)に達し
- 付き添いなしで小学校の普通級に入学
- 残り10人のうち、8人は軽度の遅れのある子のクラスに、
- 2人が重度の遅れのある子のクラスに入学
この研究は、ABAの早期療育が自閉症児の社会的な自立に有益であるということを明らかにしました。
ABAは誰に対して?
結論から言うと「だれにでも」です。
行動の原理というのは障害にかかわらず生き物に共通の原理です。
たまにABA療育は自閉症児のためのものでは?という誤解を耳にすることがありますがそれは違います。ABAの手法を用いた療育は、自閉症をはじめとする発達障害児の早期療育だけではく、学齢期、青年期などでも用いられています。ですからダウン症、知的障害、その他の障害を持つお子さんへの療育でも効果を上げています。療育という枠組みを超えれば、さらに様々な現場でABAは使われています。
なぜ多くの分野で使われているのか?
スポーツ、ダイエット、経営、カウンセリング、教育・・・・それ以外にも多くの分野でABAは活用されています。
それはABAが客観的に観察可能な「行動」に着目しているためです。
客観的、ということはより分かりやすく、対応も再現性が高いのです。また、効果があったのかどうかの結果もはっきりとします。
ABAでは何かを指導する際、一人の有能なコーチだけが出来て、他が真似ができない、と言った抽象的なものを扱うのではなく、人が変わっても再現できる言葉を使い、介入計画を立て、実行して評価する段取りで行うため、行動の原理と対応がはっきりとわかり、
- どうしたら子どもがいうことを聞くかわからない
- どうやったらクラスがまとまるかわからない
- 子どものあいさつの態度が悪いけれどどうしたらよくなるのかわからない
- 子どもにものなんて教えられない
といった悩みがなくなる…とは言い切れませんが、少なくはなるでしょう。
ABAでは「行動は変えることができる」と考えます
客観的な評価を行うので誰の行動でも、増やしたい行動や習慣を効率よく身につけ、減らしたい行動をできるだけ減らすことができるのです。
ABAの基本的な考え方
ABAの基礎原理
ABAでは、行動を観察する際、3つのフレームに当てはめて考えます。先述したスキナーの考えた「三項随伴性」で用いるABCフレームです。
そして、基本的な行動の原理は大きく分けて三つに分けられます。「強化」「消去」「弱化(罰)」です。ではそれぞれについて解説していきます。
ABCフレーム
行動を理解する際初めにすることは、誰が観察しても同じになるように、「ABCフレーム」という3つの箱に当てはめていくことです。このABCフレームを使って漠然と出来事を見るのではなく、客観的に見ていきます。
「ABCフレーム」の「ABC」とは
- 【A】はAntecedent = 先行事象(行動の前の状況)
- 【B】はBehavior = 行動
- 【C】はConsequence = 後続事象(行動の結果)
を表しています。
強化
ヒトの何らかの行動の後にその人にとってほうびとなる刺激が与えられると、以後その行動は増加します
これを「強化」といい、ほうびとなるものを「強化子」(好子)と言います。
おもちゃや、お菓子、体遊び、褒め言葉など本人が喜ぶものはどのようなものでも強化子になります。
消去
人は行動のあとにほうびとなる出来事が得られないと、その行動が減少していきます。これが「消去」です。
弱化
行動の直後に不快な出来事があると、以後その行動は減少します。
弱化には正の弱化と負の弱化があります。叱られたり、叩かれたりするような「嫌なことがおこる」のが正の弱化、持っているものを取り去るようなものが負の弱化です。
ABAでは倫理的な観点から、正の弱化は用いません。またペナルティーと呼ばれる負の弱化を用いるときにも限定的に用います。
まとめ
ABAをより深く知り、療育や皆さんの生活に役にったつことができるということがお分かりいただけたでしょうか。今後もより深くABAについての記事を書いていきますのでよろしくお願いします。
参考文献
Lovaas O I(1987)Behavioral treatment and normal education intellectual functioning in young autistic children. Journal of Consulting and Clinical Psychology 55;3-9
Japanese Journal of Clinical Psuchology Vol.17 No.4 July, 017(臨床心理学 第17巻第4号 2017年7月)応用行動分析学(ABA) 松見淳子
つみきBOOK(上) 藤坂龍司(つみきの会会員限定テキスト)
発達障害児の支援に携わる人たちのためのABA入門 藤坂龍司 つみきの会