先日こんなご質問をいただきました。
先生、ABAのセラピーを始めたいんですが、いつから始めたほうがいいでしょうか?
そのご質問に対して、私の答えは一つです。
今でしょ!
林先生の言葉を借りるとまさにこれ。
今でしょ!です。(笑)
ABAセラピーを始めていない方、と言っても様々です。すでに医療機関に行き、医師の診断を受けてお子さんの特性や得意不得意、障害などがわかっているケース。何となくお子さんの振る舞いを見て、「ん?」「あれ?」と思いネットでいろいろと検索しているところ。
本を買ったり読んだりして、具体的にやろう!と思っているものの、後回しにしてしまっている。など、それはそれは皆さん様々です。
そんなことを踏まえたうえで、なぜ「今でしょ!」なのかご説明します。
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ABAセラピーを始める時期は?
海外のサイトや文献を見ると、お子さんが診断を受けたらすぐに開始するのが良いという意見がABAの専門家の意見として一致しています。日本では「様子を見ましょう」と言うことで診断が遅れることもあるので、診断を受けたらすぐ、ではなくいくつかお子さんの様子が気になったら診断を受けていなくても始めることをお勧めします。
私が所属しているNOTIAでは申し込みは1歳半から受け付けています。その際、まずスーパーバイザーがお宅に訪問し、お子さんにセラピーをした方がいいのか、しなくてもよさそうなのか、セラピーはしない、としても日常の対応で気を付けることは何か、などをお伝えします。
海外と違って日本ではこの子に週何時間のセラピーが必要か、など教えてくれる人がいないので親は自分で判断しなければいけないのが2022年1月現在の実状です。なんということでしょう、と言う感じですよね。
なかなか専門家の後押しもないのにABAセラピーを始めます!と決断を下すのは難しいかもしれませんが、始めるのは大変でも、辞めるのは簡単なのでとりあえずほんと、始めてください、といつも思います。
(でもご家庭の都合とかあるし、いきなりそんなこと言うのは驚かれるかも、お金もかかることだし…という理由で、もっとふわっとした言い方を心がけてますが。)
早く始めたほうがいい、と書かれていると診断後すぐに開始しなかった方は
「うちはもう4歳だから遅いかな?」
と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
今の日本では診断後ABAセラピーをすぐ開始する方のほうが少ないですし、やろうかな、と気づかれただけでも!リベ大の両学長の言葉を借りれば
「今日が一番若い日です」
気づいたその時に行動する、その行動力が明日の変化をもたらすのです。
早く始めたほうがいい理由は?
ABA療育は早く始めたほうがいいというのは専門家の中で一致している意見ですが、その理由を大きく分けて3つ挙げました。
- 問題行動が大きくなる前に教えることができる
- 臨界期に教えることができる
- 早い段階で親が教え方を知ることで虐待を回避することができる
それでは一つ目の理由から見ていきましょう。
問題行動が大きくなる前に教えることができる
発達に偏りのあるお子さん、遅れのあるお子さんは、言葉の理解が遅れていたりコミュニケーションの理解が遅れていたりします。そのため、例えば欲しいものがある時に、お友達が使っていてもお構いなしにパッと取ってしまうことがあります。取ったらお友達が嫌な気持がする、それはお友達が使っているので勝手に取ってはいけない、と言うことが理解できていないため、ほしい⇒とる、と言う行動に出るわけです。
また、言葉が遅れていて「ちょうだい」が言えない時、ちょうだい、と言う代わりに癇癪をおこし、要求をかなえてるかもしれません。
- どうやったら自分の要求が叶うか
- どうやったら苦手な場面を回避できるか
- 気分が悪い、眠たい、などをどうやって訴えたらいいか
それらが分からないときに、子どもは独学でそれらを叶える方法を見つけ出します。その方法の多くはいわゆる「問題行動」とカテゴライズされる、大人からすると困った行動になって現れます。
噛みつく、叩く、蹴る、大声をあげる、泣き叫ぶ、飛び出す、などの「困った」行動の多くはお子さんがどうやって他者に自分の要求や思いを伝えたらいいかわからない⇒独学で効果のあるものを学んだ結果の行動であったりします。
独学は決して悪いことではありませんが、例えば言葉の理解が遅れていたり発達に偏りがある場合は、お子さんにとってこれはいい!という行動でも、周りにとっては非常に困った行動である場合も少なくありません。これらの、いわゆる「問題行動」はお子さんの年齢が大きくなればなるほど、多くなっていく可能性が高いと言えます。なぜならばそれらの行動は機能的に働いていて、強化されているので維持されるか増えていくのです。(この辺りは「強化について」のページに詳しく書いてあります。
「問題行動」と呼ばれる行動は、他者にとって困った行動ではありますが、本人も、実は困っていることが多いといえます。言葉の理解が遅れているのに、言葉で伝える以外にどうやって教えたらいいの?!大人も困ってしまいますし、お子さんもわかんないよぉ、ということでなおさら癇癪やなきが大きくなってしまいます。
他者と円滑にコミュニケーションを取る方法や、着替え方、持ち方、開け方、もらい方などの方法を必要な時期に本人が理解できる形で積極的に教えていくのがABA早期療育です。早めに教えれば、誤学習も少なくて済むので、問題行動が大きくなる前により労力のかからない方法で学習していくスキルを教えていけるわけです。
臨界期に教えることができる
臨界期ってなんでしょう。難しい言葉でいうとこんな感じです。
生物がある特性を獲得するために生物学的に備わった限られた期間のことで、そもそもは発生学や植物学においてとらえられた考え方であり、それが行動学にも転用されるようになった。
心理学辞典 有斐閣, 中島 義明, 子安 増生他 P891
(今回「心理学事典」を引用しましたが、現在は「現代心理学事典」が発行されています。)
もうちょっと簡単に言うと臨界期とは
「人間の脳には学習するのに適切な時期があり、その時期を過ぎると学習がその時期に学ぶよりも困難になる」ということです。
英語では【critical period】といい、臨界期のほかに「敏感期」とも言います。「臨界期」という言葉はもともとは植物学の用語です。
植物が発芽した後、ある一定期間の日光照射は植物の成長に大きく効果があるけれど、その期間を外すと効果が著しく減少してしまいます。その現象をさして「臨界期」と呼んでいました。現在ではそれらが拡張され、行動学、心理学、幼児教育などでも転用されるようになりました。幼児教育における臨界期については諸説ありますが、主に下記のようにいわれています。
- 言語能力:0~9歳
- 運動能力:0〜4歳
- 絶対音感:0〜4歳
- 数学的能力:1歳〜4歳
しかし、ヒトを含む哺乳類は他の生物と比べて学習能力がかなり柔軟であり、その期間はそれほど厳密ではないといわれています。つまり、出生直後の時期を逃しても学習が成立する可能性が高いということです。
そのことから哺乳類の場合、臨界期ではなく「敏感期」(sensitive period)と呼ぶこともあります。乳児向け・幼児向け外国語教育や、才能開発系のサイトを見ると
「この時期を逃す手はない!」
「脳のメカニズムからしても、この臨界期を逃す手はない!」
とあたかもこの時期を逃すと学習が成立しないような書き方をしているサイトもありますが、私はその書き方には懐疑的です。適切な時期に適切なことを教える、いい刺激を与えるということには賛成です。けれど、その時期を逃したからと言って学習が成立しないということはないということです。ここが植物の臨界期とヒトの臨界期(敏感期)との違いです。
ヒトは一生学習し続けるのです。
小さいころから日本語と英語に触れていなければバイリンガルになれないということはありませんよね。子どものころに自転車に乗る練習をしなかったからと言って、大人になって練習してももう乗れないということもありません。ただ、モノによっては小さいころからやったほうがスキルが高くなるというものもあるでしょう。ピアノなどの楽器や逆上がり、バク転などのスキルは大人になってからやろうとするとかなり難しいですし、やろうと思ったら相当な努力が必要ですよね。
生まれてから3歳までの間は、心も肉体も脳も神経も驚くスピードで大きく成長します。この時期に、子どもたちは外界から様々な刺激を受け、多くのことを吸収していきます。この時期に早期療育を始めることで、適切な刺激を与え、人の行動をまねすることを教えたり、(多くのお子さんが゛自然に“身につけるけれど、発達に偏りのあるお子さんはほおっておいて身につけることが困難なことが多い)遊びを教えたり、言葉で言ってもさっぱり、なお子さんにどうやってお食事やトイレを教えたらいいか親が知ることができるのです。
親御さんは、お子さんが1歳や2歳ごろからご自分のお子さんの行動や様子を見て、時に「あれ?…もしかして?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。その親の勘というのは時に鋭く働くことがあります。思い過ごしかも、と思っても、「あれ?」が一度ではなく何度もあるようならば、その時にABAの門をたたくことは決して悪い判断ではありません。
早い段階で親が教え方を知ることで体罰・虐待を回避することができる
ABAと言うのは行動の原理を扱う科学です。つまりどうしてその行動するのか、どうして行動しないのかを人のせいにしたり、能力のせいにせず、周りの環境との相互作用の中に原因を探ります。
新しいスキルを教える時には「強化」の原理を使いほめたり本人にとっての褒美を使って楽しい雰囲気の中で教えていきます。そして、困った行動を減らすときにも、罰を使わず、強化の原理と強化しない原理(消去と言います)を組み合わせて使うことで減らしていきます。
「この子はバカだからできない」
「誰に似たのかしら。誰々に似たからこんなことばかりするんだ」
「言っても言っても分からないのは根性がないからだ」
という、よく言われる(けれど全く裏付けがなく人を傷つけるだけの)原因究明ではなく、科学に裏付けされた原理からなぜ、どうしてその人(子)が特定の行動をとるのか、取らないのかを理解します。そして、そのうえでどうしたら減らせるのか、の戦略を練って、実践していきます。もしその戦略が効果がなければ再度戦略を練りなおして、介入します。
「言っても聞かないんです」「だからしつけのためにしたんです」という大義名分のもと、正義を振りかざしてお子さんに「しつけ」と言う名の体罰、虐待をすることが、果たして本当に正しいのでしょうか。
それは間違っています。
大人は困った行動をした子どもを痛めつけることで、スッキリするでしょう。もしかしたら、そのことで本当にお子さんは困った行動を繰り返さなくなるかもしれません。そのやり方でいいのでしょうか。
大人はその時に(子どもが悪いことをした時、叩いたらこの子はやめるのだ。次悪いことをしたらまた叩けばいいのだ)と学習するでしょう。つまり大人が子供をたたく行動が強化されてしまうのです。しかも、子どもはその大人がいる場面では困った行動はしないかもしれませんが、その大人がいなくなればまたやるでしょう。子どもだって(あの大人がいる時には叩かれるけれど、あの人がいなければ叩かれない)と学習しますからね。
これがいい循環とは思えませんよね。いい訳がありません。
ABAでは困った行動を具体的に分析します。その行動の直前はどんな場面だったのか、時間はいつか、どの部屋で誰と一緒にいて、どんな場面だったのか、そして行動は具体的にどんな行動か。行動の直後にどんな変化が起こっているか。そういったことを観察し、客観的に分析していきます。具体的って書いてる割に具体的にどうするかここでは書かないのか?!と思われるかもしれませんが、ABAの介入はそれぞれの特定のお子さんやヒトの行動を分析して介入するので、やり方が一律ではないのです。大体、この場合はこう、と言うのはありますが、その方法が当てはまらない場合もあるのでここでは触れません。
早いうちにABAの原理を知り、うちの子の場合こういう方法で教えたらわかるのだ、と言うことを周りの大人が知ることが出来れば、叱る回数は減るでしょう。こういう場合はこうしたらいいんだ、とわかれば気持ちも楽になるかもしれません。大変な子育ての中、お子さんが泣いているときにどうしたらいいかわかるというのは助けになると思います。
まとめ
今回はABAを始める時期についてのまとめでした。ABAは早めに始めたほうがいい!という理由を
- 問題行動が大きくなる前に教えることができる
- 臨界期に教えることができる
- 早い段階で親が教え方を知ることで虐待を回避することができる
の三つの理由からご説明しました。このご説明はあくまで私の個人的な見解です。参考程度にしていただければと思います。最終的な決定はご両親をはじめとするご家族が納得の上でするべきですし、誰々が言っていたからそうする、ではなくご家族がお決めになるべきことです。どなたかの参考になればと思います。